新潟にしかんテロワール
ちょっと前に、「愛の野菜伝道師 小堀夏佳と行く『新潟にしかんマッチアップアテンド』」と題して、新潟の伝統食用菊りゅうのひげを巡るツアーが開催されました。(企画は小倉壮平さん。ありがとうございましたー!)
豊かな風土とそこに住む人が織りなすテロワールを思い切り体感(胃袋中心に体感?)できる旅となりました。
忘れないうちに、記録として残しておきたいと思います。 以下、長いですけど、読んだらきっと新潟にしかんへ行きたくなるはず!お時間の許す方は読んでくださると嬉しいです
※一番最後の方に酒蔵訪問記もありますので、日本酒ファンの方はぜひそこだけでもチェックを
========= ■いきなり心を奪われる風景 ========= 新潟に「にしかん」というエリアがある。 政令指定都市である新潟市内の西の端のほう。
私たちがまず向かったのは、弥彦神社の菊まつり
神社の背後に聳える美しい稜線を描く弥彦山 この弥彦山をご神体として、この地域では遥か縄文の時代から信仰が続いているのだろうなぁと思いを馳せる。山の向こうはすぐに海だそう。
弥彦山からの豊かな伏流水と山麓に広がる長閑な田園風景が実に印象的。
季節は山の彩り鮮やかな時期で絶好のタイミング。久しぶりに間近でみた山の紅葉がなんだかとても心に沁みた。
温泉街が近く、菊まつりが開催されているせいか、弥彦神社に着くと、月曜の午前中の割には思いのほかの人出で賑わっている。
========= ■弥彦神社の菊まつりで「りゅうのひげ」の先祖?かもしれない嵯峨菊をチェック ========= 菊まつりに足を運んだのは初めてだったけれど、想像を上回る品種の多さ、サイズや高さの違い・・・そして、何よりも菊盆栽に驚いた。(菊盆栽って知らなかったので。。)
今回の出張は「新潟伝統食用菊『りゅうのひげ』とにしかんガストロノミー」と銘打ったマッチアップアテンドということもあり、ここでは、りゅうのひげが嵯峨菊の系統の糸唐松(きんからまつ)の一種と言われていることから、嵯峨菊を観賞。
この「嵯峨菊(さがぎく)」は、 2mほどもあろうかという背丈で大変に見栄えのする菊だったが、それもそのはず。「嵯峨天皇がその気品ある姿と香りを好み、永年にわたって育成し一つの型に仕立て上げられた風情と格調をかねそなえた菊」なんだそう。
そのため、京都における嵯峨菊は専ら観賞用の菊となっていて、「食す」文化はない。
ちなみに、この嵯峨菊は、京都・大覚寺の「門外不出」の菊ということだが、その門外不出の菊が巡り巡って新潟の地に根付いて「りゅうのひげ」という食用菊となっているという。今となってはその足取りを文献史学の観点から辿ることはできない。
========= ■新潟伝統食「りゅうのひげ」(をはじめとした地域の食材の数々)を食す ========= 昼食で訪れた料亭「三笠屋」は、新潟地産地消を標榜するお店。立派な料亭の玄関を入り、くねくねと曲がりくねった廊下の突き当たりにある奥座敷で季節や地域を感じさせてくれる素晴らしい料理の数々を頂いた。板前さんが私たちのために一般的な食用菊を使ったお料理とりゅうのひげを使ったお料理を用意してくださっていた。
一見すると花びらがかわいらしくピンピンしていて、このビジュアルがりゅうのひげってことなのかな?と思っていたけれど、茹でるとしんなりした花びら一本一本が絡み合ってシャクシャクした食感を楽しむことができる。密に絡み合う部分とそうでない部分とが、ランダムな歯応えとなっていてとても楽しい。何よりも、このりゅうのひげを入れるだけで、途端に華やかになる。香りも主張しすぎないところが個人的にはとても好みだった。素晴らしい和製エディブルフラワー!
========= ■灯りの食亭KOKAJIYA(古民家イタリアン)で地元食材を堪能 ========= お昼にお邪魔した料亭とは一味違う古民家イタリアンで、狩猟免許も取得している熊倉シェフの料理を堪能。りゅうのひげをアオリイカと合わせた一皿も素敵。この日は鹿肉も楽しませていただいた。
それにしても、古民家リノベーションのセンスが良すぎ。こんなところに住みたいと思わせるほどに。
========= ■いよいよりゅうのひげの圃場へ ========= 翌朝、いよいよ今年81歳になる長津さんの畑へ。りゅうのひげに恋焦がれて10年という長津さんが語る姿は情熱的だ。農業を心から楽しんでいる様子がたまらない。こんな魅力的な81歳に出会えると、歳を重ねることが楽しみになってくる。
さて、この「りゅうのひげ」はその昔、三根山藩のお殿様が菊ご飯にして食べたという伝説のある食用菊。しかし、その栽培の手間から生産者がいなくなり、一時は絶滅の危機に瀕していたそう。りゅうのひげ会がこの食用菊を発見したときには、たったの(まさかの!?)2株だったが、復活プロジェクトを立ち上げて、現在では10軒ほどの農家さんが栽培するまでになった。
そのなかでも長津さんは、無農薬無化学肥料で露路栽培を行う希少な生産者。露地で育ったりゅうのひげは、色が濃く、香り高くなる。堆肥には乳酸発酵させた籾殻を用い、太陽熱養生処理をして土づくりに励む。土壌をふかふかの団粒構造にして根を張りやすくし、根の量を増やすことで作物の根が吸収しやすい毛管水が増えるのだそう。何年もかけて土づくりに励んでいると話してくれた。
だから、りゅうのひげを食すならば長津さんの栽培したりゅうのひげをおすすめしたい。
それにしても目に眩しい畑。 ひまわりのように、みーんなお天道さまの方を向いている姿はなんとなく健気な感じもして、とっても愛らしく思えてしまう。りゅうのひげの正面に回り込むと、火花が飛び散っている様が可憐な花火のよう。
長津さんの他の圃場も見学した後、出荷場へ場所を移した。
========= ■なんだかいい感じの出荷場 ========= 出荷場は窓が多く明るい。その光を受けて、りゅうのひげが輝き、ますます明るい。 そして、底抜けに明るい仲良し3人組のおばちゃんたちが手際よく、丁寧にりゅうのひげをパッキングしているところを見学させていただいた。
そこに、地元の高校生3名が先生に連れられてやってきた。課題研究という大学でいう卒論のようなものを作成しているのだという。
我々はここでおばちゃんたちの手作りの太巻きやお漬物、汁物でランチをいただいた。もちろんりゅうのひげもふんだんに使用。
忘れがたいおばちゃんの味を堪能して、旅を終えたのであった。
========= ■このほかにもあんなところやこんなところへ ========= テロワールを体感する旅として、このほかに、酒蔵とル・レクチェの生産者を訪問した。
宝山酒造さんでは、美魔女と呼ばずしてなんと呼ぶか!という、蔵元のお母さまが、淀みないトークで酒蔵の中を案内してくだささいました。驚くほど若々しいお肌の秘訣はお酒をお顔に塗ってうん10年ということでしたが、なかなか真似できそうにない。
この蔵では地元の食用米を使って酒造りを進めているそうで、お話を伺いながら色々と試飲させていただいたが、個人的に「これは!!」と思った珍品?希少?なものが2つ。
ひとつは、酒母100%の酒(※日本酒ではない)。甘酸っぱくて9%という低アルコール。酒母だけ詰めた物があるとは。 しかも、かなり美味しくて、つい購入させていただいた。
そして、もうひとつ。いわゆる貴醸酒なのですが、貴醸酒で貴醸酒を作り・・・というのを10年やるプロジェクトがあるそうで。 さまざまな価値を模索している新たな酒蔵の姿を見て、将来世界における日本酒のプレゼンスが楽しみになりました。
「NOBLE」という名称で、1年目はナイト、2年目バロネット、3年目はバロン・・・と階級が上がっていって、10年目にはエンペラーというタイトルを冠した日本酒になるそう。。
そのほか、新潟が日本の生産量の80%超となっているル・レクチエの生産者小池さんのところへ。可能性を感じ、日本で初めてル・レクチエの栽培を始めた小池左右吉さんのひ孫さんが、今も手間を惜しまずル・レクチェを栽培して、家業を守っておられました。原産国フランスでは、栽培に手間がかかることから既に商業生産はされておらず、まさに幻の西洋梨とも言えるもの。
収穫後の作業場でお話を伺いましたが、マスク越しにもその気品溢れる香りが鼻腔をくすぐるほど。これからが出荷最盛期のシーズン。楽しみです
・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ Special thanks:ツアー企画者の小倉壮平さん、りゅうのひげ生産者の長津さん 旅は道連れのみなさま:銀座ウエストのシェフパティシエ金子さん、雑誌「地域人」編集の新山さん、料理通信編集者の古屋さん、アースデイジャパンネットワーク共同代表の秋元さん、そして日本野菜テロワール協会代表理事の小堀夏佳さんと私。
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